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今日の源氏物語

椎本9

続きです。

〔本文〕

 げに、川風も心わかぬさまに吹き通ふ物の音〔ね〕ども、おもしろく遊び給〔たま〕ふ。
 御迎へに、藤〔とう〕大納言、仰せ言にて参り給へり。人びとあまた参り集ひ、もの騒がしくてきほひ帰り給ふ。若き人びと、飽〔あ〕かず返り見のみせられける。宮は、「またさるべきついでして」と思〔おぼ〕す。
 花盛りにて、四方〔よも〕の霞も眺めやるほどの見所あるに、唐〔から〕のも大和〔やまと〕のも、歌ども多かれど、うるさくて尋ねも聞かぬなり。

〔訳例〕

 確かに、川風も分け隔てをしない様子で吹き通って運ぶ楽器の音色どもは、興に乗って管絃の遊びをしなさる。
 お迎えに、藤大納言が、帝のお指図で参上なさっている。人々が大勢参集し、なにかと騒がしくて先を争ってお帰りになる。若い人々は、心残りで振り返りばかりせずにはいられなかった。兵部卿宮は、「またふさわしい機会に」とお思いになる。
 花盛りで、あちらこちらの霞も遠くまで眺めやるほどの見応えがあるので、中国のも日本のも、歌がたくさんあるけれども、わずらわしくて尋ねても聞かないのである。

〔解説〕

 「げに」は「川風も心わかぬさまに吹き通ふ物の音ども」に続いていることから、〔椎本5〕の匂宮の歌の下の句「なほ吹き通へ宇治の川風」を承けていることが分かります。
 「藤大納言」については、〔紅梅1〕で「按察使大納言と聞こゆるは、故致仕の大臣の二郎なり。亡せ給ひにし右衛門の督のさしつぎよ」と説明がありました。柏木の弟で、紅梅大納言と呼ばれています。
 「唐のも大和のも」は、漢詩も和歌もということです。「歌ども多かれど、うるさくて尋ねも聞かぬなり」は、物語を省略する語り手の言い訳です。

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